このコーナーでは、医療を少し離れて、自分自身のことや身の周りの出来事についてお話ししようと思います。第4回目、今回のテーマは「ハロウィン」です。
もう5年前になってしまいます。私たち一家はサンフランシスコで2回目のハロウィンを迎えようとしていました。日本ではあまり有名ではないハロウィンのお 祭りですが、アメリカの子供たちにとっては一大イベント。10月31日の夜には、それぞれ仮装してパンプキンを飾っている家々を回っていきます。 「trick or treat」と言いながら。これは「お菓子をくれないといたずらしちゃうよ!」というハロウィンでの名文句です。
わが子たちも大変張り切っていました。1年前ははじめてのハロウィンで、 なにもわからず、ただ、ついて歩いていただけの長男も今年は楽しみだと言いながら、衣装を決めました。彼はSTAR WARSのキャラクターにすぐ決まり ました。真っ黒の衣装にお面をかぶって、なかなかきまっています。1年前は日本のキャラクターのアンパンマンでしたので、白人の老人からは「あなたはだあ れ?」と聞かれていました。息子は「日本のキャラクターさ」と説明しなくてはならず、面倒だったようです。きっと今年はみんな知っているぞ!とうれしそう です。
困ったのは長女です。1年前はパンプキンになりました。おとなしくちょこんとベビーカーに座っていたので、それはそれはかわいいと好評でした。でも2年目は自己主張が強くて・・・
私は、彼女は黒髪で、黒い瞳なので、白雪姫がいいと思っていました。実際に衣装をあてて みるとよく似合います。「白人の白雪姫よりずっといい、これはアジア人の特権だ」とすら思ったくらいです。ところが・・・長女は人とはちょっと変わった感 性を持っており、「かわいい」の基準が違ったのです。ウサギやクマのぬいぐるみより恐竜やカエルのキャラクターを好み、人形を抱かせると足を上に抱っこす るような子供でした。
衣装を買うために行ったお店で私とけんかです・・・
私「これがいいよ、かわいいよ。よく似合うし」と白雪姫の衣装を持ってすすめました。娘「いやだ。りんごばあさんがいい」、私「・・・・・・」 そう、娘 は白雪姫より、りんごをくれる魔女がいいというのです!!おまけにその衣装を手にとって、「すてき!」と。ああ、いったいどこが素敵なの?私には全く理解 できず、売り場の前で話し合いました。衣装の前に座り込んで大きな声で母は日本語、娘は英語でけんかです。周りの人は当然娘の言うことは理解でき、私の言 うことは理解できません。一人のおばさんが近づいてきて私に尋ねました。「あなた、この子が言っていること、わかっているの?こっちがいいといっているの よ。」娘は誰とでも仲良くなる子なので、そのおばさんに自分がいかにりんごばあさんを素敵に思っているか、話します。片言の英語で、一生懸命に話す日本の 子供がとてもかわいく思えたのでしょう。おばさんは一言「こっちにしなさい」と云って去っていきました。もちろん、りんごばあさんのほうです。
さて、困った。そこで両方着てみることにしました。白雪姫はサイズがぴったり。しかし、 りんごばあさんのほうは娘のサイズがなくて、来年ならちょうどいいのに・・・という大きさでした。そこで私が提案しました。「今年は白雪姫。来年はりんご ばあさんにしたらどう?ハロウィンは毎年あるのよ」と。もちろん1年後は彼女の好みが変わってくることを期待して・・・。りんごばあさんが大きすぎたこと は、娘にもわかり、しぶしぶ承知しました。絶対に来年はりんごばあさんになるんだと主張しながら・・・
さて、ハロウィン当日。私たちは旅先でハロウィンになりました。でも「trick or treat」に出かけました。娘はやはりよく似合ってかわいい白雪姫でした。みんなが「かわいいね」とほめてくれます。ところが・・・本人は「これはかわ いくないの。来年はもっとかわいいりんごばあさんになるよ」と説明。みんな???といった顔をしますが、娘は平気。「これはね、ママが選んだだけ」といか に自分は不本意かを伝えていました。
その後は・・・というと、実は私たちは3回目のハロウィンの前に帰国してしまい、娘はりんごばあさんになり損ねました。子供のことですから、記憶にはうすれてきているようですが、そのときの写真を見て、今でも「なんか、このとき、もっと別のものになりたかった気がするんだよね・・・」と、つぶやく長女です。
思い出してみると、なぜあんなに私は白雪姫にこだわったのだろう?りんごばあさんでもよ かったのに。自分が白雪姫になりたかったのかな?いまでは娘もすっかり、ディズニープリンセスにはまり、シンデレラや白雪姫やアリエルに夢中です。りんご ばあさんを「すてき」といった娘も、なかなかよかったんじゃないかと思うのです。 (2004.10.21)